F.蝶は籠の中
空が茜色に染まり始めていた。
晩蝉が鳴き、涼しくなった風が通り過ぎる。
「かぁごめ かぁごめ かぁごの、なぁかの、とぉりぃは……」
短刀たちが手を繋ぎ、うずくまって目を覆った俺を取り囲む。
昔からある子供の遊びだ。
かごめかごめと囃し立てながら、真後ろに来た相手を当てる。簡単そうに見えるが、人数が多いとなかなか当たらない。
「後ろの正面 だぁれ?」
聞こえた声は、低いように思えた。
「……後藤?」
「残念、私でした」
振り返ると、さっきまでいなかったはずの一期が笑っていた。
「こいつは驚いた!いつから混ざってたんだい?」
「つい先程です。夕餉の準備が出来たので呼びに来ました」
差し出された手を掴んで立ち上がる。
「ごめんね、鶴丸さん。ボクがいち兄を誘ったの。驚いた?」
手を合わせて謝りつつ、小悪魔的な笑みを浮かべる乱には敵わない。
「まったく、少しも悪いと思ってないだろ」
さらさらの長い髪を撫でて、細い背を押した。
「罰として準備を手伝ってこい。全員でやればすぐだろ」
「はーい!」
乱を先頭に、短刀たちは厨へと走って行った。
「ずっと弟たちに付き合ってくれたのですか?」
残された一期と、並んで歩き出す。
「いや、日が暮れ始めてからだな。あの子たちは、俺が日焼けしないように気を遣ってくれたらしい」
白い肌は、夏の日差しに負けてすぐ赤くなる。
「あの子たちは皆いい子だな」
悪戯好きだが、決して人が不快になることはしない。心優しい短刀たちの兄に微笑んだ。
「……ええ、自慢の弟たちです」
夕陽のせいか、誇らしげに言う一期の頬が微かに赤い。
「鶴丸殿、後でお時間よろしいでしょうか?」
「なんだい、改まって。きみと俺の仲じゃあないか」
御物に名を連ねて三百年。
はっきり口にしたことはないが、親友だと思っている。
「ありがとうございます」
困ったように笑う一期の本心に、俺は気付かなかった。
本丸の刀剣たちには、それぞれ四畳半の個室が与えられている。
内装は自由に決めていいので、俺は畳敷きにちゃぶ台を置いた。寝る前には押入れから布団を取り出して敷く。
簡素な部屋だが居心地はいい。
「そろそろ一期が来るかな?」
ちゃぶ台に酒器を揃えて、つまみの算段をする。
(夕餉に出た鮎の塩焼きは美味かったな。まだ残ってるといいんだが……)
あとは畑当番が摘んだ夏野菜を切って、光坊お手製の味噌を添えよう。冷奴や、燻製のひとつでもあるといい。
俺もそれなりに食べるが、一期はもっとだ。
締めに茶漬けを欲しがるだろうと思ったところで、障子の向こうに人影が映った。
「お邪魔してよろしいですかな?」
「いいぜ」
律儀に正座してから、建具に指を滑らせる。一連の流れが優美で好きだ。
「酒とつまみを持ってくる。少し待っていてくれないか?」
「いえ、どうぞこのままで」
立ち上がりかけた俺を制止し、障子をすとんと閉めた。特殊な術を施された部屋は、この所作で完全防音となる。
「鶴丸殿」
すいっと膝が迫ってきた。
狭い部屋が余計に狭くなったように錯覚する。
「驚いてくださっても構いませんが、茶化さないでくださると約束して頂けますか?」
「うん?真面目な話なら、それなりに対応するぜ」
いつも柔らかく笑う一期は、どこか苦しそうだった。
「……私は、もうずっとあなたのことが」
「え……?」
その後も何かを続けられたが、音がここまで届かない。
厚めで形のいい唇が動くのをぼんやり見ていた。
「鶴丸殿」
自分の名前を呼ばれて、やっと自分が放心していたと気付く。
壊れ物にでも触れるように両手を取られた。
「あなたが好きです」
取られた指に口付けられる。
「……どう、して?」
かすれた声は自分のものではないようだ。
「俺は、きみを……ずっと、大切な友人だと……」
親友だと思っていたのに。
「存じております。ですが私は……あなたを友人だと思ったことなど……」
熱っぽく潤んだ目が俺を見ている。
ずっと?
今までずっと、そんな獣じみた目で俺を見ていたのか?
「……い」
「え?」
裏切られた気持ちと、欲望の対象にされる嫌悪感。
嫌だ。
吐き気がする。
見ていられなくて視線を逸らせば、さっき自分で敷いたばかりの布団が目に入った。
「あ……」
その先を連想させるものに、身体が動く。
『キモチワルイ』
気付けば一期の手を振り払っていた。
「……すみませんでした」
傷付いた声。
一期を悲しませているのは俺だ。
「いや。いや、きみのせいじゃない……俺が……違う、そうじゃないんだ……」
だめだ。ひどい目眩がする。指先が冷えていく。
「鶴丸殿、貧血を起こされてませんか?どうぞ横になってくだされ」
心配をさせて申し訳ないと思う。
ついさっきまでなら、甘えられたのに……。
「……すまない、ひとりにしてくれ」
それだけ口にするのがやっとだった。
「わかりました」
傷付いただろう。
それをおくびにも出さずに、一礼すると静かに退室した。
(一期が俺を好き?)
俺に何を望んでるっていうんだ?
「うっ……」
酒など一滴も呑んでいないのに、悪酔いしたみたいだ。
男女のように睦み合いたいとでもいうのか?
(いやだ。そんな関係になりたくない)
長年刀として存在していたせいか、はたまた気質的なものか。欲望らしいものなど感じたことがない。
(一期は好きだ。弟と一緒にいる時の兄の顔も、戦場に立つ横顔も、酔って愚痴を言うところも好きだ)
だけどこれは恋じゃない。
一期が求めてきたような、狂おしい感情じゃない。
身体を折り曲げて畳に倒れる。
布団に占領された部屋に、寝転がれる場所などない。
少しずれるだけで、あたたかく優しい場所が迎え入れてくれると分かっているのに。
(いやだ……)
身体中が冷えているのに、一期が口付けた指だけ熱い。
(いやなんだ、一期)
こんな熱を受けたら、きっと……。
(俺は堕ちてしまう)
それは理由のない確信だった。
気付けば明け方になっていた。
あのまま寝てしまったらしい。
屈折したまま固まった身体が痛い。
そろそろ起きなければ伽羅坊と光坊が心配するだろう。
みんなが揃う大広間に、行くことにした。
「あ、鶴丸さ……どうしたの、その顔!?」
ちょうど配膳を手伝っていた乱に声をかけられる。
「少し夢見が悪くてな。熱い茶を貰えるかい?」
苦笑すると、近くの座布団に座らされた。
「もうっ!お茶くらい部屋まで運ぶのに。とりあえず座って。熱はない?ボク薬研を呼んでくる」
「おいおい、そこまで……」
と言いかけて、口を閉じた。
ひょっとしたら自分は、そこまで酷い顔色をしているのだろうか。
「あ、いち兄っ!」
お茶を運んでくれた乱が、ほっとしたように息をつく。
「鶴丸殿、お加減が悪いのですか?」
心配そうな顔に、昨日の名残は見えない。
「……ああ、少しな。手入れ部屋に行けたらすぐ治ると思うんだが」
「あれは負傷用の部屋ですよ。体調が悪いなら私が代わりますから、あなたは休んでいてください」
「そうかい?助かるぜ」
いつもと変わらない気安い会話。
昨日の出来事が夢のようだ。
(あれほど酷く拒絶してしまったんだ。俺に幻滅したのかもしれないな)
なんにせよ、今までと変わりない関係でいられるのはありがたい。
罪悪感がちくりと胸を刺した。
ここ数日は、練度上げと小狐丸探しを兼ねて墨俣へ出陣する事が多い。
「俺が隊長か。はっはっはっ」
「笑ってる場合じゃねぇぜ、三日月。きみが一番練度が低いんだからな」
鷹揚に構えているが、三日月の練度は俺たちより十は低い。理由はもちろん、本丸に来なかったせいだ。
「あたしは暴れられりゃあ、なんでもいいんだけどね」
「俺も暴れたくてうずうずしてるぜ!狐の一匹や二匹、この鵺がいれば簡単に見つかるさ」
「心強いですな」
次郎太刀、獅子王、一期と揃えば、墨俣攻略も難しいものじゃあない。
「真の敵は賽子のみ……!」
「頼んだぜ、三日月」
「あい、わかった」
三日月がころんと賽子を振る。
墨俣攻略は難しくない、が……。
「おお、寅ですな。鶴丸殿が振ると午ばかりで難儀したものです」
「くっ、一期一振……きみも午ばかりだっただろう!?」
「さて、再刃されたせいですかな。少々記憶が……」
そう、誰が振っても賽子は午ばかり。
勝率およそ二割!
疲労は八割増し!
「仲いいのは分かったからさ、一期も鶴丸もケンカするなよ。三日月のじいちゃんたち、先に行っちまうぞ?」
獅子王に宥められて進もうとした時だった。
ゆらりと黒い霧のようなものが俺たちを取り囲む。
「敵襲か!?」
「気配が変だぜ。気を抜くなよ!」
先に行った三日月が気になったが、次郎太刀が一緒なら大丈夫だろう。
それより問題はこちらだ。
「鵺が唸ってる。いつもと様子が違うぜ……」
緊張した獅子王の声を背に、抜刀する。
敵は六体。短刀四振りに、脇差、太刀だ。
「鶴丸殿は短刀を。獅子王殿は脇差を頼みます」
「ああ、わかった!」
「短刀四振りが相手か。驚いたな」
この面子で小回りが利くのは俺だろう。
順当とはいえ、大太刀でもないのに四体は手に余る。
「信用されてると……思っておくか!」
抜身の刃で手近な一体を斬りつけた。
「ギシャアァッ!!!」
骨の蛇のような短刀が一斉に襲い掛かる。
「ほいほいっ、受けてやるぞ」
かわしきれない攻撃が肌をかすめた。
腕ににじんだ血を拭って、ぺろりと舐める。
どの短刀も同じに見えるが、一振りだけすばしっこいのがいる。
瞳孔を細くして軌道を読む。
「そこだぜ!」
ジグザグに動く短刀の頭蓋骨をかち割った!
乾いた骨の崩れる音が、カラカラ響く。
手応えに武者震いすると、うわぁっと声がした。
「どうしたっ!?」
振り返れば、ちょうど獅子王が脇差を仕留めたところだった。
「一期が!」
獅子王の視線の先で、一期が膝折れていた。
見開いた目と口に、黒い霧状のものが入り込もうとしている。
獅子王が一期に駆け寄り、黒い霧を切断しようとした。しかし霧は掴めも斬れもしない。
「うっ、ぐぅっ……」
苦しそうに一期が呻いた。
狐の影のようにも見えるそれは、毒々しい気配を放っている。
「くそっ!」
(一期が折れたら、俺は……)
いいようのない恐怖を蹴散らすように、短刀を斬り付けた。
めちゃくちゃな攻撃が当たるわけもなく、軽くかわされる。
焦りで視界が歪んで見えた。
(誰か、助けてくれ!)
「獅子王よ、鵺に喰わせるがいい!」
凛と通る声に、鵺が口を開く。
ごぉっと霧を丸呑みして、満足気に息を吐いた。
「は……た、助かったぜ」
気の抜けた様子で、獅子王が一期を支える。
「すみ、ません……お手を、わずらわせました……」
「今のは俺じゃなくて、鵺と……」
獅子王が言い終わるより先に、怒号が響いた。
「どりゃああぁぁっ!!!」
次郎太刀の大太刀が、残された短刀二振りを容易に砕く。
危ないところだった。
「間に合ったようだね」
「なかなか来ないから心配したぞ。戻って正解だった」
「はぁ……助かったぜ」
三日月と次郎太刀のおかげで、無事に難を逃れられたようだ。
「次郎太刀、一期に手を貸してやってくれ。獅子王が潰れそうだ」
「あたしじゃ潰れないってのかい?……まぁ、いいさ。色男を背負うのも悪くはないね」
「助かったぜ。鵺が……ものすごく、重くて、な……」
そういえばさっきの霧を丸呑みした鵺は、問題ないのだろうか?
目を閉じたまま死んだように動かない鵺を、獅子王はひぃひぃ言いながら担いでいた。
「撤退するぞ。鶴よ、しんがりを頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
先頭の三日月が、背後の戦場を振り返る。
「……狐に化かされたか」
その呟きが、やけに耳に残った。
本丸に帰ってからは大変だった。
一期は手入れ部屋、ついでに軽傷の俺も手入れ部屋。
幸いすぐに出て来られたが、今日出陣した面子は全員が休養を取るように言われた。
霧を喰ったきり動かなくなった鵺だが、石切丸に診せると。
「……満腹で寝ているだけだね。消化不良に効く加持祈祷をしておこう」
「そんなもんされたら鵺が死んじまう!」
……との事だった。
「それにしても、あの霧はなんだったんだろうな……?」
まるで一期の肉体を乗っ取ろうとしているように見えた。
もう深夜だが、石切丸や次郎太刀、薬研に長谷部は黒い霧の正体を探っているだろう。
「……考えても仕方ないか」
言いようのない不安ばかりが、身体を覆っているようだ。
寝よう。寝てしまおう。
全部忘れて、何もかも……。
目を閉じれば、襦袢と暖かい布団が包んでくれる。
眠りに落ちようとしていた頭を、かすかな歌声が邪魔した。
「かぁごぉめ かごめ 籠の中の鳥は……」
ただの子供の唄だ。
だが、低い声は不吉な予感を孕んでいる。
布団から身を起こし、行灯に火を入れた。
廊下の端から聞こえていた歌声は、この部屋の前でピタリと止んだ。
障子に映った影が揺らめく。
傍らの太刀を取った掌に汗がにじんだ。
「後ろの正面だぁれ?」
「……一期一振」
「正解です」
すっと障子が開き、一期が入ってくる。
いつもと変わらない仕草なのに、違和感が拭えない。
ザワリと肌が総毛立った。
何か良くない予感がする。
「どうした?怖い夢でも見たのかい?」
臆する自分を隠し、なんでもないように声をかけた。
「ええ、とても怖い夢を見たのです」
穏やかな笑みも、いつもと変わらないのに。
(一期が怖い)
伸ばしてきた手を無言で振り払う。
「あなたに拒絶されるのは二度目ですな」
太刀を抜こうと、鞘に手をかけた。
「ですが、今度は引きませんよ」
太刀ごと俺を引き寄せ抱き締める。
自分が震えているのだと、その時気付いた。
「うあっ……」
バランスを崩して一期の懐にすっぽり収まってしまう。
「つかまえた」
――― とん。
真っ暗な場所に突き落とされた。
「うっ、ああぁぁぁっ!!」
何も見えない。足場がない。
目を開いているか閉じているかもわからない。
上も下も右も左も闇、闇、闇。
「な……んだ、これ……」
闇に境をつけるように、金糸がチカチカ光っている。
金糸はぐるりと張り巡らされ、豪華な鳥籠のようだった。
「落ち着かれましたか?」
そこでようやく、一期に抱き締められたままだと気付いた。
「きみはっ……あ」
驚きを通り越して、言葉もない。
「あなたが恋しくて恋しくて恋しくて、私は異形へと堕ちました」
軍服めいた紺色の衣装。その上着の裾から、骨で出来た尾のようなものが伸びている。
「……そうか、そういうことか」
胸が冷たいもので満ちてゆく。
一期の入り込んだ黒い霧が、刀剣男士を異形へと変えたのだろう。
一期のみを選んだのは、おそらく……。
(俺のせいか)
恋しさから堕ちたと告げられた。
それが出来たのは、一期の中身が空虚だったからではないのか?
(俺が一期を受け入れていれば、一期の中身が俺で満たされていたなら、黒い霧が入り込む隙間はなかった)
そういうことかもしれない。
「おわかりになりましたか?」
穏やかに微笑んでも、それは俺の知っている一期じゃない。
「一期じゃないくせに、俺に触るなっ!」
暴れても、抱き締められた腕から抜け出せない。
「悲しいですな。今の私も一期一振です。あなたに恋する哀れな男に違いはありますまい」
籠から一斉に細い糸が伸びた。
「ぐっ!」
四肢に絡み付き、雁字搦めにする。
「なんだこれっ!くそっ、離せっ!」
「それは私の一部です。痛覚はありませんが、触覚は残してあります」
おびただしい量の細い糸が、肌をまさぐり手足を拘束する。
「いやだ!離せ、離してくれ、一期っ!!」
無数の細い糸で編まれた蜘蛛の巣のような寝台で、磔にされた。
「ふふ、まるで蜘蛛に絡め取られた蝶ですな」
舌なめずりをして、おそろしく歪んだ表情で俺を見下ろしてくる。
「……来る、な……」
捕食されると、本能が怯えた。
「どうしてですか?」
白い手袋を外すと、襦袢の袂に指をすべらせる。
「……あっ」
なぜ自分の口から甘やかな吐息が漏れるのだろう。
口を塞ぐことすら許されず、唇を噛み締めた。
「ずっと夢見ていました……白磁のようなあなたの肌に触れる日を……」
血管が透けて見える肌に触れ、顔を寄せてくる。
「……っ」
せめてもの抵抗で、唇を噛み締めたまま接吻された。
「あなたが愛しくて憎い。……そんなにも私を受け入れたくはないのですか?」
返事の代わりに睨みつけると、悲しそうにうつむかれる。
「今のきみは……俺の知ってる一期じゃない。一期は……こんなこと、しない」
俺が傷付くくらいなら、たやすく自分の腕を落とすだろう。
俺が知ってる一期一振は、そういう男だ。
「いいえ。この私も……あなたの一期一振です。ただ、あなたが認めたがらなかっただけ」
肌蹴た胸元の中央で尖る乳首を、熱い舌が舐める。
「う、あぁぁっ……」
全身に鳥肌が立ち、腰の奥が熱くなった。
「あなたが知らなかっただけです。私は毎晩、あなたの柔肌を欲しがる肉体を鎮めていたのに」
「一期、きみは……正気か?」
まともじゃないと思った。
「もちろんですとも」
はんなりと微笑まれて、乳輪の淵に歯を立てられる。
「あの黒い霧を受け入れた時も、あなたに拒絶された時も、私はずっと正気でした」
噛まれた場所からにじんだ血を、一期の舌先が舐め取った。
「ひっ、くぅ」
「清廉潔白な鶴丸殿は、堕ちた刀剣は狂うものとお考えでしたか?」
「ははっ、考えたこともないな。堕ちたら折る。それだけだぜ」
なぜか一期は嬉しそうに笑った。
「そうでしょうとも」
舌が首を這い、丹念に舐める。
「んっ、んぁっ、はっ、アッ!触る、なっ……!」
噛みつかれ、肌を吸われる。
赤い跡が花びらのように降り積もった。
「っ……きみなんかに、触られてたまるか!」
睨みつければ両頬を強く抑えられる。
「それは私に?それとも一期一振に?」
射殺しそうな視線を真っ向から受け止めた。
「きみみたいな卑怯者と、俺の一期一振を同じにするな」
「同じですよ。あなたが認めたがらなかっただけです」
触れるだけのキスは優しい。
「心が手に入らないなら、身体だけでいい。あなたが欲しい」
「やらん」
拒絶しても、唇を割って舌が入ってくる。
「ふっ……あ……」
厚い舌に噛み付こうとしても、両頬を抑える手は緩まない。頬骨を固定され、無理やり舌を捻じ込まれた。
「んぐっ、うっ、んんっ」
逃げようとする舌を捕まえられ、強く吸われる。
「鶴丸…殿……んっ、ぬちゅっ」
熱い。
舌が、身体が、目の奥が熱い。
動悸が激しい。
「れろっ、ふぁ……あむっ」
吸われた舌を解放され、代わりに上顎をなぞられた。
「ひっ、ふぁ……あぁぁ……」
肌が火照り、腰が疼く。
(なんだ、これ、は……?)
興奮しているのだろうか。
自分が?まさか!
視界の端で、一期から生えた尾が自慢げに振られた。
「……異形と引き換えに、得たものもありまして」
舌こそ抜いたものの、息がかかるほど近くで唇が動く。
「この体液は、媚薬のような効果があるのですよ」
愉快そうな微笑みがぼやけた。
「……ぁ、はぁ……はぁーっ、あぁ……」
強い快感で、目元に涙がにじんでいる。
両手も頬から離され、疲労した頭が蜘蛛の糸に落ちた。
「身体が熱くて仕方ないでしょう?ココが膨らんでおりますぞ」
勃ち上がりかけた中心を、袴の上から撫でられる。
「ひっ、アッ!」
ビリビリする刺激に腰が跳ね、さらに膨らみを増した。
「気持ちいいのでしょう?素直になってくだされ」
音がしそうな口付けをされ、口を開かされる。
「ち、がう……」
否定する声は弱い。
「これくらいでは足りないと?ならば、もっと差し上げましょう」
「いらな、あぁっ!」
甘い蜜のような金の瞳が、愉しそうに細められた。
頬の中で舌が蠢き、水の溜まる音がする。
「辛くはさせたくありませんので……さぁ、どうぞ」
垂らされる、泡だらけの唾液。
「いや…らぁ……」
口も塞げず、避ける事も許されず、無慈悲に毒薬が流し込まれる。
「んっ、あ、あぅ……んくうぅっ」
……甘い。まるで甘露だ。
(一期の味がする)
もちろん一期の味なんて知らないのだけれど、この匂いなら知っている。
(戦いの匂いだ)
一期一振が興奮している匂いだ。
「いち、ごっ……んっ、んんんっ!」
今更のように、一期の興奮対象が自分だと自覚する。
「いや、やだっ……あっ、んぅっ、ふっ……ンンッ、んむぅ……」
一期の呼吸が荒い。指が、触手が、身体が、俺の抵抗をあざわらって絡み付いた。
(嫌だ。性の対象なんて気持ち悪い)
入れ物が鋼から人へと変わっても、肉欲らしいものを抱いたことなどない。
色事より皆の笑い声、日々の食事、誰かの涙、ふとした感動。
夏の太陽は眩しく灼けるような強さで輝き、落とす影の色は濃く深い。
冬は寒さに身も心も冷やし、降る雪の白さと淡さに驚いた。
そんな、なんでもない日常がいとしい。
恋なんてする暇はない。
自分を縛り、組み敷く雄の顔など見たくない。
ようやく離れた唇から糸が引いている。
麻痺しそうなほど強く吸われた舌がひりひりした。
「たの、む……止めてくれ、一期……」
身体が熱くてたまらない。
「本当に止めて欲しいのですか?」
伸ばされた触手が、袴の上から股間を握る。
言われなくても、それが硬く勃起していると理解していた。
「うっ……ううっ」
勃起した先から体液が滴っている。
尿とも違うそれは、口付けが深くなるほど量を増し、白い袴を汚していた。
「出さなくては辛いでしょう?」
「つらく、ない……っ!いっ、一期、頼む……頼むから、もう……」
こんなのは嫌だ。
快感に追い立てられて流されたくない。
「ええ、もう焦らすのは止めにしましょうか」
「ちがっ……んあぁっ!?」
片手で帯を解かれ、素足を覆う袴を脱がされる。
「下着を穿かないなど不用心ですなぁ」
俺よりも大きな掌が、震えて刺激を求めるソレを包んだ。
「ふあぁっ!」
嬉しそうに反り返るモノを、優しい掌が扱く。
「あっ、うっ、んぅっ、やめっ……ふっ、あっ、くっ、んぅっ、いち、だめっ……だめ、やっ、あっ、あぁっ!」
まるで、のぼせているようだ。
どこもかしこも熱くて、腹の奥が暴れそうなほど疼いている。
「んっ、うぅっ……へん、何か、出る、うっ……や、だっ、いち、手を…離し、いっ、ひぃっ、んひぃっ」
「手淫も知らないのですか?……そうでしょうね、あなたは真白くて、汚れひとつない……雪のようです」
「ゆ……き?あ、あぁ、熱い、い…ち……身体が、あ、あふっ、熱い、ひっ、はぁ、はぁっ、アッ」
一期の手が動くたびに、ぐちゅぐちゅと淫らな音が響いた。
「私にとって鶴丸殿は、真夏の雪でした。目の前にあるのに触れれば消えてしまう……美しい存在」
悲しそうな声が胸に痛い。
「消えな、い……俺は、ひうっ!いち、それ、だめっ、だめだっ!いち、いちっ、もう、おれ、もうっ……あっ、あぁぁっ!!」
熱い何かが尿道を駆け上がる。
「どうぞ……好きなだけ出してくだされ」
鈴口に爪が食い込む。
「ひっ、いぁっ!アッ……」
震えが腰を走り肌が粟立つ。
「くるっ、なに、かっ、きちゃっ……ひっ、はひいぃぃっ!!!」
ビュクッ……!
濃くねっとりした何かが弾けた。
「ッッ!!!」
紛れもない快感が背筋を走る。
自分の意志を無視して高められる感覚に、刀として振るわれた頃を思い出した。
「……う、ふ、うぅ、ふぅぅ」
大きく背が上下し、金の蜘蛛糸が白濁した体液に汚される。
「もう、こん…な……嫌だ……」
顔を隠すことすら許されない。
羞恥も屈辱も快感も混ぜこぜになって、後から後から涙が頬を伝う。
「いや、だッ……、ひっく。うっ、ぅっ……」
幼子のように泣きじゃくる俺を見下ろす一期は、怖いほど冷静だった。
「嫌だと言うのなら……」
とろりとした体液に濡れた指が、一期の口の中に吸い込まれる。
「ふぅ……ん、ちゅうっ……ふふっ、鶴丸殿の精液は、甘じょっぱいですなぁ」
「……ぅ、あぁ……」
自分で出したものに、嫌悪感と不潔さを抱いた。
「どうして、俺……なんだ?」
赤い舌で、蜜の瞳で、一期は俺を食べようとしている。
『どうして?』
他にいくらでも一期を愛する刀剣はいるだろう。
なのに、なぜ。
「どうしてと、あなたが問いますか?」
一期は上衣を緩めず、勃起し始めた下腹部のみを凝視している。
「浮世離れした言動で私を惑わせ、夢中にさせた自覚くらい持ってほしいものですな」
そんなものは知らない。
一期が勝手に俺に夢を見ているだけだ。
そう言いたいのに、何も答えられない。
「反論しても良いのですよ?はしたなく淫らな肉体に、翻弄されるのは慣れていますから」
指についたすべての精液は舐め取られ、一期の掌は唾液でベトベトしていた。
「俺がいつそんな真似を!」
ひどい濡れ衣だ。
こちらは墓入りしたせいか、欲にはとんと疎い。
「強がられても、先っぽが泣いておりますよ。あれだけでは足りない証拠でしょう」
「違う……これは、きみが……」
俺の意志じゃない。
そう思うのに、さっきから凝視されているせいで恥ずかしくてたまらない。
羞恥すればするほど意識してしまい、ソコは硬く勃起しいやらしく淫らに泣いていた。
「きみが、見るのが……いけない」
恥ずかしさと屈辱で、このまま消えてしまいたい。
ぬるぬるした触手の拘束は強く、俺の抵抗も涙も意味はない。
「私はもっと、あなたを見たい」
余裕のない声。
「なっ、ま、待てっ!一期!」
両脚を抱え上げられ、大きく広げられた。
触手は俺の懇願に反応もしないのに、一期の意志には逆らう様子がない。
「うっ、あっ、や、だ、見るなっ!」
出したばかりの精液と先走りで、一期が欲しがる器官は濡れそぼっている。
「どうしてですか?こんなに興奮するのに」
煽られて文句を噛み殺す。
一期が相手では、何を言っても無駄だ。
「まるで娘御ですな。ああ、何も入れていないのに、物欲しそうにヒクついていますよ」
羞恥で死にそうな俺を嘲笑うように、骨張った指が一本挿しこまれた。
ツプッ……ヌルッ!
「ひっ、あ、あぁっ!」
唾液で湿っていた指を、ソコはやすやすと飲み込んでいく。
「いや、や、あっ、やだぁっ!あっ、んっ、うあっ、いち、いちぃっ……ひっ、はっ、あひいぃっ!」
「気持ちいいですか?ああ、涎が垂れておりますな」
「……!や、やめっ……」
一期の顔が股に近付く。
「そんな、汚っ……あ、あひいぃぃっ!!!」
指の埋め込まれた穴の淵を、真っ赤な舌が丹念になぞった。
「ひぃっ、やぁっ!やだあぁっ!!いちっ、やだっ、やめろっ、やめてくれっ、アッ、んんんんっ!!!」
見られたくない。そこは穢れの溜まる場所だ。舐めるなんて正気の沙汰じゃない。
「これだけで感じてしまいますか?光栄ですな」
舌が、舐めてる。俺の、
「ア……」
挿入された指が、ぐぐっと角度を変えた。
「ひっ―――!!!」
コリコリした硬いモノを指がかすめる。
「はっ、あっ、んああああぁぁぁっ!!!」
感じたことのない快楽が脳天まで駆け上がる。
舐められてる。穴の淵も、その奥も、熱くてぬるぬるした舌が、俺を!
「やだっ、出るっ、出ちゃ……あぁ…ああぁぁぁぁ」
拘束された身体が痙攣する。痛がる余裕すらない。
ドクッ……ビュクビュクビュクッ!
制止すらままならず、一期の手や顔に精を吐き出していた。
「たくさん出ましたね……いい子」
「……っ、はっ、はぁっ……」
今のが、欲情か?
今まで一度だって達したことはない。
まして、こんな屈辱的な……。
怒りで視界が眩みそうだ。
「く、うっ……うっ、折れた、方が……マシ、だぜ」
「残念ですが、あなたは折れませんよ」
首に両腕を回して、一期が微笑む。
「私が、折らせない。この身に変えてでも」
だが眼差しは真剣だ。
「はっ……裏切り物が言うと笑えないな……」
びちゃりと水が滴り、舌が離れる。
「もう少し我慢してくださいね」
別の指が、とろとろになった穴の淵を撫でた。
「うっ、ぐ、んんっ……!」
モゾモゾ動く指のせいで腹が気持ち悪い。
「はっ、ひっ、んひぃっ」
舌とは違う感触に、怖気と快感が走る。
「もっと奥まで入りそうですな」
「もう、入らなっ、アッ、んあぁっ!」
唾液を垂らす穴に、指がぬぷぷっと入ってきた。
「……ッ!」
舌は柔らかかったが、指は硬い。
指の腹で壁面をなぞられるとゾワゾワする。
「いち、ごっ……やめっ……んっ、くぅっ!」
「これだけでは辛いですよ。この狭い場所に、もっと太いものが入るのですから」
ゾッとした。
一期が俺に望んでいるのは、そういうことだ。
「俺の意志は無視かい?」
「ええ。断るでしょうから」
「あ……」
当たり前だと言いかけて飲み込んだ。
堪えたわけじゃない。
窄まろうとする穴を、骨張った長い指が拡げたからだ。
「ああ……奥までよく見えますよ。赤く充血して、ヒクついてますな」
「このッ、変態……!」
あまりの羞恥に涙がこぼれる。
「うぅ、んくっ……見、るなぁ、そんな……汚い、とこ、ろぉ……んっ、くぅっ、は、はぁぁ」
「なぜです?あなたの身体は、どこもかしも美しい」
懇願しても一期は微笑むだけ。
「ふっ……うっ、んはぁっ……」
視線から逃げて目をつぶろうとする。
その直前に、視界の端で何かが蠢いた。
ニュルッ、ビョルルルルッ!
「っ……ひっ!?」
四方から伸びてきた触手の先が淵にかかる。
「んあぁっ!き、気持悪いっ、やめて、一期!頼む、もう……こんなの、うっ、ふぅっ、ううっ……」
触手の表面は、ヌルヌルした粘液で覆われていた。
その粘液が粘膜に触れると、焼けるように熱い。
舌にアルコールをぶちまけられたようだ。
「あ、熱い、熱いんだっ……取って、その触手を……んっ、ふぅっ、はぁっ、と、取ってくれ……」
「ははは、ご冗談を」
ついっと粘液と腸液の混じり合ったものを掬われ、舐められた。
「こうしていれば、私の指がなくてもあなたの身体の中まで丸見えですな」
「い、やだぁ……」
「ああ、奥の方は……きれいな桃色をしてますね。こちらの赤く腫れたところは、どうですかな?」
グチュッ。
一期の言葉に反応して、腸の中で触手が蠢く。
「や、ひっ、や、やだっ……あっ、んあぁっ!く、来るなっ……ま、さぐる、な、ァ、ん、く、んぎぃっ」
一期の指で嬲られた場所を、触手が摘まみ、引っ張った。
グイッ、グジュッ!
「んぁっ、ンンンンッ!!!」
頭が真っ白になって何かが弾ける。
腰が浮き、とろとろの愛液が尻から分泌された。
「ふふっ。メスイキしましたか?あなたの尻から蜜がたらたら滴っておりますぞ」
「よせっ……頼む、やめてくれっ……一期、いちごぉっ!!」
身を捩って嫌がるが、全身を苛む触手は頑丈でビクともしない。
ネトネトと糸を引きながら、腸の粘膜をグチュグチュ揉み解してくる。
「愛しいあなたの願いなら、なんでも聞き届けたいのですが……残念ながら無理ですな」
「だったら離せっ!こんなことが何になるっていうんだ!」
「何になる?鶴丸殿を得られるではないですか」
「そんなっ……ことの、ために?」
悲しそうに一期は微笑んだ。
「こうでもしなければ、あなたは私のものにならなかったでしょう?」
「………」
言葉に詰まった。
こうしている間も、おぞましい触手は肌を、体内を這いずり、俺を汚している。
それでも、何も言えなかった。
(俺が一期を受け入れてたら、こんな事にはなってなかったんじゃないのか?)
すべて自業自得なのかもしれない。
「……なぁ」
問いかける声は、悲鳴を上げすぎて掠れている。
「どうして一期は、俺が好きなんだ?」
「三百年お傍におりましたのに、今さら理由が必要ですか?」
一期はずるい。
「……あなたがいないと寂しいのです。どれほど見事な花園でも、蝶がいなければ枯れゆくだけでしょう」
「俺たちは何も生まない。ただ殺すだけの道具だ」
「それでも私は、あなたがいなければ生きる意味などないのです」
足を拘束する触手が緩み、一期の両手が太腿の裏側を持ち上げた。
「……抵抗しないのですか?」
「は……きみに抗っても勝てる気がしない」
ほら、そんな顔で笑うな。
「愛しております、鶴丸国永」
そんな無邪気な、子供みたいな顔で……笑わないでくれ。
「俺は愛してない」
「そうでしょうとも。それでもあなたは、私から逃げられない」
一期一振はずるい。
濡れそぼったソコに一期のモノが押し付けられる。
……ズッ、ズヌッ。
「……っ、ぁ」
指とは比べ物にならない、凄まじい圧迫感。
「ひっ……あぁぁっ」
息が詰まる。肺がからっぽになりそうだ。
「くる、しっ……い、ち、うっ、んぅっ……」
待ち望んでいたように、腸壁が蠢き一期のモノを締め付ける。
「っ、はぁっ……ああ、鶴丸殿の、中は……」
汗を浮かべ、眉をひそめて、一期が嘆息した。
「こんなにも、苦しいのですな……」
優しいくちづけ。
「……きみが、きらいだ」
俺を理解したように言うな。
「はい」
笑って頷くな。
「嫌いだって言ってる!」
「好きにさせてみせますよ」
ぐぐっと腰を押し付けられた。
ズルッ……ズズズッ!
「ひっ、はひっ!いっ、ひゃっ、アアァァァッ!!!」
指と触手で丹念に解された場所が、一期を受け入れる。
「あっ、はぁっ、はぁっ、鶴、つる……好きですっ、あなたが……はっ、あぁぁっ!狂うほど、あなただけが……」
ヌプッ、グププッ!ズンッ、ズズッ、ズヌッ!
「あぁっ!や、あぁぁっ!!気持ちいいっ……ひぃっ!!」
腹の底から追い上げられる。
それが感情なのか肉欲なのか分からないまま、急かされるように声を上げた。
「もっと感じて、くださ、れっ……っ、ふ、うっ……」
一期に同化するように、触手が伸びる。
「んっ、あっ、はぁっ、や、らぁっ!あっ、うあぁっ!!」
口に押し入った触手が舌に絡み、縛る。
「舌が、んぁっ!しょくひゅが、邪魔しれ……んっ、ひゃべれ、なっ……うあぁぁ……」
薄く筋肉のついた胸を触手が這い、中心の突起に吸い付いた。
「ふぅっ、ううぅっ!」
まるでイソギンチャクに乳首を吸われているようだ。
「はぁっ、あっ、ううっ……いひ、ろぉっ……おっ、んぉっ、ふぐっ、はぁ、あぁっ!」
媚薬なのか分泌液を垂らしながら乳首を吸われると、ドロドロに溶けてしまいそうになる。
ジュブッ、グチュッ!ズッ、グボッ!ゴボボッ!
勃ち上がった俺のモノに、触手が巻き付いた。
「はぁ、はぁっ……あうっ、はぁっ、やら、は…ひゃわる、らぁぁ……」
ぐるぐる巻きにされて、ハムじゃないと文句を言いたくなった。
もちろんそんな余裕はない。
(もっとも巻き付いているだけなら……)
舌を縛る触手のせいで、口は閉じる事もままならない。
あふれた唾液や涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
それに比べたら、まだ……。
……ビリッ。
「……は、ひっ!?」
熱い痺れのようなものが走った。
「今の、ら…に……いっ、ひぎいいいぃぃぃぃっ!!!!!」
ビリビリビリビリビリッ!!!
「ああああぁぁぁぁぁっっ!!!!いっ、がっ、アッふっ…アアァァァァァァッ!!!!」
電流だ!
放電する触手が俺を焼いてる!
「いひっ、だすげっ……あっ、あぐっ、ううっ!!ぐううぅぅぅっっ!!!」
ビリッ、ビリビリッ……。
「はっ、はひっ、ひゃっ、アッ、なんれ、こんらぁ…あっ、うぐっ、あぁぁっ……」
激しい電流はとこで止まったものの、一期は額に汗を浮かべて腰を穿ち続けていた。
「ふふっ、心地いものですな……鶴丸殿は、苦痛に喘ぐ顔も美しい」
「ひみはっ、ひゃいあくら、おろほ……らなっ!」
悔しい。
もっと反論したいのに、ろれつが回らない。
触手に加えて、全身に痺れが残ってるせいだ。
「うっ、ううっ……やらぁ……はうっ、ううっ、ふくぅ、うっ……いひ、ろぉ……」
閉じられない口からあふれた唾液が、顎まで滴った。
電流の刺激でビュクビュク脈打つモノの先を、触手が執拗に撫でる。
ヌルヌルした分泌物で亀頭を撫でられると、イきそうなほど気持ちいい。
「ああ、目元が赤くなってきましたな……。酷くされる方がお好きですか?」
「ひがうっ!」
睨んだ先の瞳は潤み、俺を見下ろしている。
「乱れた顔で睨まれても、男は興奮するだけですよ」
一期の手が太腿を離れ、俺の根元を握った。
「ひっ!」
「ふふっ?少しは我慢も覚えましょうね」
出そうだったところを塞き止められて、心臓が引き絞られるように痛い。
「た、のむ、いひご……こん、らの、狂う……おかひぐ、なるぅ……!」
「もっと狂わせて差し上げますよ」
剣呑な色が瞳に浮かび、背筋が凍った。
「あなたが私から離れられないように、逃げられないように、こんなはずじゃなかったと後悔するくらい!」
逃がす気なんてないだろう!
叫ぶより先に、一際細く長い触手が鈴口をつついた。
「ひゃにを……」
嫌な予感に、粘液まみれの触手を凝視する。
顔などないソレは、鎌首をもたげてニタリと笑ったようだった。
「……よ、せ!」
触手の頭が、鈴口にめり込む。
「ぐっ、アッ……!」
入るわけない。
そこは、そんな場所じゃない。
後ろだけじゃなく、前まで犯されるなんて。
「まるきりメスですな」
思っていたことをそのまま言われて神経が逆撫でされる。
「ひみはっ……はっ、はひっ!!!」
細い触手がヌルヌルうねり、鈴口を拡げた。
「ひっ、あひいぃいぃぃっ……!」
尿道を抉じ開けて、触手が侵入してくる。
「ひっ、いっ……うぎっ……いぃっ!」
脂汗が浮き、苦痛に呻いた。
「はぁ、ひぃ、はぁ……」
辛い、痛い、苦しい、自分のすべてを一期に侵されている。
「苦しいですか?先程まで、あんなに善がっていたではありませんか」
にこやかに微笑みながら、一期が腰を打ち込んだ。
ズッ、グププッ!ジュプッ!ジュププッ!!
「ひっ、はっ、ひゃっ、あっ、んあっ!ひぃっ、はひぃっ!!」
どこがイイか、一期はもう知り尽くしているように腰を振ってくる。
酷い侮辱だった。
「はっ、うっ、はぁっ!いひっ、も、らめっ……あうっ、うっ……これ、しょ、ひょくひゅ、やめっ……あっ、ひっ、アァァッ!!」
なのにどうして、快感が絶え間なく湧き上がるんだろう。
「ほら、いいんでしょう?もっと素直になってください。私の身体の一部だって……」
鈴口を抉る触手を、愉しげに一瞥した。
「は、んふぅっ」
激しかった腰の動きが緩慢になる。
グチュッ、ヌルッ!
「んあぁぁっ!」
俺が気を逸らした瞬間、触手が一気に入って来た!
ズブッ、ジュブブブブッ、ビョルルルルッ!!!
「ひっ、アッ、やらっ、ぐるっ、ぐるらっ、アッ、ひぐっ、うっ、うっ、~~~~~っっ!!!!!」
前を犯す触手が、尿道で渦を巻く。
「はうっ、あっ、ううっ、うぎいぃぃぃっ!!!」
詰め込まれた触手のせいで、一期に握られたモノが爆発しそうなほど膨らんでいた。
その先が割れ、烏賊の足のように何本にも分かれた。
「やらぁ……腹、重…い、ひっ、いぃぃ……」
尿道のさらに奥、膀胱まで到達する触手。
精巣へと向かう触手。
尿道にとどまり、ぐちゅぐちゅと抽挿を繰り返す触手。
そのどれもが一期の一部で、俺の全部を貪っていた。
グチュッ、ズンッ!ズブブッ、ジュブンッ!
「ひゃああぁあぁぁぁぁっ!!!」
膀胱を掻き混ぜられて悲鳴をあげる。
弾けそうなのは精巣だけじゃなかった。
下腹の内側に、熱い渦がふたつある。
心臓が血液を送り出すたびに、渦がドクドク膨らんだ。
「やら、やらぁあぁぁ……」
膨らんだ先にあるのがなんなのか、想像だけでまた涙があふれる。
「いひっ、いひご、やめ……おね、がい、もう……うっ、お、俺ぇ……げん、ひゃいっ……」
必死で首を振り、一期に縋る。
「どうかされましたか?」
わかっているだろうに、微笑んで一期は腰を揺すった。
「ひぁっ、ひゃっ、アアァッ!!」
ピュッと先っぽから黄色の体液が飛ぶ。
「おやおや、今のはなんでしょうね」
面白そうに言われて、限界まで耐えていた心が折れそうだ。
「それで?何をお願いしたいのですか?」
「い、意地悪、する…な、あぁっ!アァァッ!!!」
膀胱に入った触手が、胴体を大きくうねらせる。
「やらぁ、出るっ……おし、おしっこ……出りゅう……!」
ひぃひぃ泣きながら訴えると、膀胱を掻き混ぜていた触手の先端が、スポイトのように膨らんだ。
「私としてはそれでも構わないのですが……いいですよ。いじめすぎては、あなたが逃げてしまいそうだ」
「んくぅっ……は、ひぃ?」
スポイトがオシッコをちゅうちゅう吸い上げる。
頭が白くなる。嫌だ。またあの感覚だ。抗おうとしても、放尿とは違う爽快感に震えるだけだ。
「やっ、やらっ、あっ、うあっ、はっ……ひっ、きひいぃぃぃっ!!!」
射精できないのに、腰が痙攣してイッてしまう。
身体が空砲を放って絶頂した。
「はっ、あっ、はぁっ……」
喉が詰まったようで、声も出ない。
ようやく満足してくれたのか、舌を縛る触手が解かれる。
「ふふっ。漏らさずにイきましたか。少し残念ですな……」
散々自分を嬲っておいての言いぐさに、一期を強く睨む。
「おまえのせいれっ!」
縛られ過ぎて麻痺した舌は、滑舌が悪い。
「何を仰られたいのか分かりませんな」
楽しげに目を細めると、一期は腰を掴んだ。
「あなたが望んだのでしょう?私は、鶴丸殿を助けただけです」
「このッ、偽善者が!」
「言いますな。押し付けて来たのはあなたでしょう。いい友人でいるようにと」
「……!」
今までの凌辱をなまぬるく感じた。
「偽善者はあなたの方だ!全部なかったことにして、触れることも離れることも許さない……狡猾にも程がある!」
「一、期……俺は……」
それほど一期の視線は冷たく、その絶望の深さを思い知らされる。
「言いましたよね?私が堕ちたのは鶴丸国永のせいだと」
腕を拘束する以外の触手が、身体から離れていく。
一期の執着も離れていくようで、いいようにない恐怖に襲われた。
「待て、一期!俺は……」
俺は?
そんなつもりなかったと言えるのか。
(言えるものか)
俺が、一期を縛っていたんだ。
「言い訳などいりません。心もいらない。身体だけでいい」
両脚を大きく割られ、抱え直された。
ズブッ、ジュブジュブッ!グチュッ、スブウゥッ!!
「はっ、ひっ、ひぃっ、はあぁあぁぁあぁぁっ!!!」
根元まで押し込まれて何も考えられない。
「いいっ、ひぃっ!気持ちいっ……あひっ……ひぐうぅっ!!!」
強烈すぎる快感に、思考も抵抗もできない。
「いちっ……うあっ、はっ、アァッ!!一期おぉぉっ!!」
縛られたままの腕がつらい。
信じられないほどの熱を受けて、理解した。
(これが一期の想いか)
(俺の隣で友として振る舞いながら、こんな激情を隠していたのか)
胸が痛かった。
一期の気持ちを理解しようともせずに、手を払った自分を後悔していた。
「逃げない、からっ、アッ、んあぁっ!!ほ、どいて、腕……うっ、んぁっ!はっ、あぁっ!!」
絶え間なく背筋を駆け上がる快感に流されそうだ。
(流されるな、まだ)
(まだ一期に伝えなきゃならないことがある)
「頼むっ、頼む、か、らっ…あっ、んはっ!き、みを……はぁ、はぁっ……抱きしめ、られ…な、い……ンンンンッ!!!」
一期に穿たれる度に、頭が真っ白になる。
それでも出ないのは、身体が別の快楽を知ってしまったからなのか。
「あなたは、どうして……っ!」
泣きそうな顔で一期が奥歯を噛み締めると、腕を拘束していた触手が解ける。
「あ、あ、いち、ご……一期…一振っ……」
俺を犯しながら泣く男を、強く抱きしめた。
「鶴丸、殿っ……うっ、んうっ、どうして、あなたはっ……私を許すのですか」
押し潰されそうな一期の重みに、蜘蛛の巣の寝台が軋む。
「最初にきみを傷付けたのは、俺だ。だけど……もう、逃げない……約束する。きみと一緒にいる……」
ああ、そうだ。
花がなければ、蝶は生きていけない。
俺だって、きみがいなければ生きていけないんだ。
「……っ、一生後悔してくだされ!」
怒りと後悔と歓びが同居した顔だ。
欲にまみれたその顔を、今はいとしいと思った。
「後悔しない。だから、一期っ……んっ、もっと、ンンッ、おかしく、し、てっ……うっ、んんんっ!!!」
絶え間ない快感に蕩けそうだ。
口を開いた舌を差し出せば、噛み付くように吸われる。
「んっ、んんんっ!一期っ、んぅっ、ふっ、や、やぁっ……ちゅっ、んっ、ぢゅるるっ!」
唾液を混ぜ合わせて、飲ませ合う。
指と指を絡ませ合い、身体の奥深くを貫かれる。
「好きだ……あなたが、好きですっ!理由なんていらない……あなたがいないと、耐えられないだけだ!」
散々弄られ尽くしたイイ場所に打ち込まれ、腰がわなないた。
「ああっ!!ああぁぁぁっ!!!いちっ、くるっ……も、くるぅっ……!」
ズッ、ズズズッ……!
大きく腰が引かれる。
「ふっ、あっ、あぁっ……!」
「つるっ、鶴丸殿っ……ああっ、鶴、丸っ……私も、もうっ、もうっ……!」
振り下ろされた鈍器のように、強く最奥を抉られた!
グチュッ……グボボボボボッ!
「いち、ごっ、んっ、おっ、あっ、あっ、ああぁぁぁっ!!!」
繋がり合った身体が同時に震え、絶頂する。
ドプッ……ゴポッ!ドプドプドプッ!!!
「あっ、ンッ、くっ、アッ、アアアアアアァァァァァァッ!!!!!」
熱い。粘つく。一期が。一期の……。
「あっ、はっ、つる、まるっ、んっ、うぅっ!」
腹の奥で腸がうねっている。そこだけ別の生き物のようだ。
グチュッ、ヌルッ、グポッ……ゴポポッ。
「ひっ、や、あぁっ!う、ごい、た、らッ、あっ、んぐうぅっ!」
快感に震える内臓から、一期が引き抜かれる。
奇妙な喪失感に寂しさを覚えた。
「ええ、まだ足りないでしょう?」
ズッ、ズプッ、ズズズッ!
「ひっ!?はっ、アッ、ひいぃぃいぃぃぃっ……」
抜かれると思ったモノが、凄まじい圧力で捻じ込まれる。
「なっ、あっ、こん…なのっ……あっ、んあああぁぁぁぁぁっ!!!」
なんだこれは。
炎か?玉鋼か?炉で焼かれた刀身に、人の器を焼き尽くされているようだ。
「もっと差し上げます。いくらでも搾り取って下され」
「やっ、む、無理っ、いっ、あひいぃっ!?」
散々奥に出された精液が、外に漏れようとしている。
「遠慮なさらずに、ンッ!はぁ、はぁっ、私の味を……覚えてくだされ」
「や、でもっ、あっ、んあぁっ!!まだ、だめっ、らめっ……んぁっ、はあぁぁっ!!!」
吐き出したばかりの精液が、ぐりぐりと腸の入口に塗りたくられる。
ズブッ、ジュブッ!ズンッ、ズブブッ!
「ひゃっ、はひっ……それ、やぁっ、あうっ、らめぇぇっ!!ひぃっ、おが、おがじぐなりゅうぅっ!!!」
「おかしくなればいい……っ!」
激しく腰を打ち付けられて目の前がチカチカした。
ジュブッ!グチュンッ、ズチュッ、ヌプヌプッ!
「ひっ、いぃぃっ……!お、奥うぅっ!!きて、きでるうぅっ!!うっ、んぐぅっ!!はっ、アァッ!!!」
一期が最奥を抉るたびに、内臓が下から持ち上げられる。
苦しくてたまらない。胸いっぱいに苦いものが込み上げた。
気持ち良すぎて苦しいなんて、初めて知った。
「ふっ、はっ、あぁっ!またっ、くるっ……きちゃうっ!!」
腹の中の一期は、俺を食い荒らし続ける。
強く穿たれる度に、目眩で意識が飛びそうだ。
それでも、俺は……。
「鶴丸殿……」
ためらいがちに、一期が俺を抱き締める。
「泣かないでくれ、一期一振……きみが泣くと、俺まで悲しくなる」
自由になった両腕で、抱き返した。
「鶴丸…殿……?」
その頬を伝う雫を舐めて、目元にくちづける。
どちらのものか分からない体液で、肌は湿り不快な匂いを放つ。
それでも舌で触れた涙は、切ないくらい透き通っていた。
「きみは俺のものだ。だから俺だって、きみのものだろう……?」
広い背中をそぉっと撫でれば、幼子のように身体が震えだす。
「ええ……もう、離しません」
奥に入ったままの一期が熱い。
熱いけれど、もう苦しくはない。
ドクンドクンと脈打つソレを、一期の魂のように感じていた。
「……こんなはずじゃ、なかったんです……」
かすれた声を赦すように、自分からくちづける。
「もう、いいんだ」
きみがどれほど後悔しようとも、もう離してなどやらない。
「きみは永遠に、俺のものだ」
絶望を突き付けられて、ようやく己の真実に気付いた。
(俺ははじめから、こんなつもりだったのさ)
愛しい刀を抱き締めて、ひっそりと笑った。