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一頻り泣いた彼は憑き物が落ちた様に静かになった。赤に染まった双眸も金色に戻っていた。

 

俺と言えば、彼の刀が垂直に刺さって貫通した所為で傷は深かった。でも疵口が小さいので、以外に派手な出血は無く無事に刀も抜けて胸を撫で下ろす。

投げたアルミケースを拾ってきて、その中から先程使った白い布を出し、半分は細く斬って止血に使う事にする。中身は無事だったことにも安堵した。

 

「良かった。君の刀身を折らなきゃいけなかったらどうしようかと思っていたが、なんとかなったな」

「折っても良かったのに……全く無茶をなさる。貴方はいつも……」

小さくなった布の上に2人で座りながら俺の手当てをする彼はどうやらこの本丸にいた俺を思い出したらしい。彼がすいません、と謝るので。

 

「気にするな。君はこの本丸の俺が好きだったんだろう?俺も鶴丸国永だから、思い出しても不思議はないさ」

 

思い出したのは苦しいだろうと思い、辛くさせてすまない、と言えば。

 

「いえ、貴方は似ていませんよ」

 

私は貴方を同じには思って居ません、と前置きした彼はポツポツと昔を語り始める。

 

「この本丸の鶴丸殿は、あまり多くを語らない方でした。優しい方でしたが、常に飄々としていて捕らえどころがなく、私が好きだと告げたら受け入れてはくださいましたが……あの方の気持ちが本当はどうだったのか、最後まで私にはわかりませんでした」

 

付き合ってはいたし、抱いた事もあるのに好かれていたかは自信がないと言うので、俺は不思議になる。

 

「何でだ?君に抱かれているんだから、君が嫌いなわけがないじゃないか」

「嫌いじゃない、と好きには大分差がありますよ」

 

好きと好きじゃないは等価じゃないんです、と彼は言った。良くわからない、という顔をすれば、本当に好きだと嫌いじゃないなんて絶対言えません、と言った。

 

「あの日私が外出している間に主は何者かに討たれました。でも私が外出していたのを覚えていた人はいませんでした。 弟達は直ぐに私を信じてくれましたが、他の皆は、犯人は主の近くに居た私だと言った。あの方は……鶴丸殿は、私が犯人じゃないとは言っては、くれなかった」

 

彼が言うには、主の亡骸の側に彼の釦が見つかった事、政府に彼が犯人として報告された事、彼をどうするか政府の処遇を確認して居る間に状況整理をしていた山姥切国広や大倶利伽羅が次々と討たれた事……それら全てが彼のせいになり、刀解されそうなったところにこの本丸の俺と彼の弟達が彼を助けた事、それから仲間と戦っている間に本丸に火が放たれたという事だった。

 

「酷い話だな。まず君が外に出た記録がないのはおかしな話だ。しかし君は何で外に?」

「それが、主に笹を頼まれたんです。七夕で私が買って来た笹をと言われて。万屋で買ったものですが、時期ものだと言われて。仕入先を万屋に聞いたら調べてくれるという事で……連絡して直接お宅に伺う日がその日だったのです。ですが、そこは存在して居なかった」

 

訳がわからないまま帰って来たら主は何者かに討たれ、私は犯人扱いでしたという彼の口調は淡々としていたが、膝に置かれた手は握られ、震えていた。

 

「辛い事を言わせてすまない」

「いえ……やっと、言えました。少し楽になった気がします」

 

ありがとうございます、と少し笑う彼に手を伸ばし、言ってくれてありがとうと頭を撫でると。

 

「貴方は優しいですね。ちゃんと、言葉をくれる」

「君には言いたいのさ」

 

君は何も悪いことはしてないからなあ、と笑いながら考える。

 

 (やはりあの笹は証拠だったか)

 

なんとかして持って帰らなくては、と思うがその為には此処から出なくてはならない。

 

――俺には形代があるから、俺だけならこの空間を斬って外に出られるかもしれないが。

 

問題は彼だ。彼を外に出す方法を思いつかなくては。彼は、死んでいない。

 

「私の事は気になさらずに。帰れるなら、私を置いて行って構いません」

「何を……」

 

俺の考えを読んだかのように彼が答えるので、どうしてと言外に問えば。

 

「私はこの本丸の貴方を外に出せなかったのは、やはり心にあったわだかまりだと思います。好きだったけれど、信じると言って貰えなくて、最終的に助けてくれたこの本丸の貴方を手放せなかった」

 

でも貴方は違う。信じると言ってくれたから、私も信じられると俺に言って微笑む彼は優しい声音で自分を置いて行けと言う。

 

「どうか、出てください。此処から、貴方だけでも。私にできることなら何でもする。だから……」

「それじゃ、駄目だ。君も行こう。一緒に」

 

いつもの俺なら、効率重視できっとそれに乗ったはずだった。証拠を主に届けてからもう一度くればいいと思ったはず。だが、俺はその言葉が出なくて気が付けば一緒に、と言っていた。

 

「私、も?」

 

彼か目を丸くして俺を見る。だがすぐ逸らして、

 

「でも私の命はもう終わっています」

「君は終わってなんかいないさ。俺の傷は塞がってないのは、君が俺と物理的に戦ったからだ。君が死んでいたら俺には直接傷はつけられないからな」

 

そういう彼に死んでいない、と告げる。俺には形代があるからわかる。呪術的な力で俺を傷つけた場合、それは形代が代わりになるので俺に傷はつかない。

でも俺の身体には彼につけられた消えない傷が3ヶ所ある。

 

(意外にあの戦いも無駄じゃなかったなあ。ちょっと怖かったが)

 

良いこともあるものだ、と思いながらあの時の一期は強くて美人だったな、と思っていれば。

 

「私は、死んでいない……?」

 

呆然と呟く彼に笑って俺は答える。

 

「君が何をしても此処に戻ってくるのは、きっと生きているからだ。生きていれば清めも祓いも効かないのは当たり前だろう?」

 

囚われているだけなんだからなあ、と言って彼の刀身を撫でる。これがあって良かった。

 

「君には此処に固定される何かがかけられているんだろうな。それさえ、破れたらいいんだが」

 

どうするかなあ、と腕を組んで考えていると背筋を正した一期一振がコホン、と空咳をした。

 

「なんだ。君に何か考えでも?」

「方法は、無いわけじゃないです。ある事にはある」

 

やけに神妙にいうので、どんなにか凄い方法があるのかと何だい?と顔を覗き込む。

 

「そうなのか?どうすればいい」

「簡単な事です。私が貴方と契れば――つまり私が貴方を抱けばいい。繋がれば貴方の神気は私に流れ、呪を吹き飛ばす。そうすれば呪が貴方を攻撃するが、それは形代に上手く移れば私を此処に縛る呪を破れるでしょう。多分そうすればこの空間は自動的に壊れると、思いますが……」

「詳しいなあ。流石、此処の審神者の近侍をしていただけのことはある」

 

俺はそういうのは苦手なんだよなあ、と笑えば彼は少し悩んだ顔をしてからただ、と彼は言葉を切る。不安そうな金色の瞳が揺れて、彼は俺に聞いてきた。

 

「今の貴方は、私をどう思っていらっしゃいますか」

「いきなり何を言って……んんっ!?」

 

なんなんだ?と不思議に思っていたら彼は俺を引っ張った。俺は自動的に彼の胸に倒れこむ。そのまま上を向かされ、気がついたら唇が重なっていた。

 

驚いて目を閉じる暇はなかった。

彼の濡れた舌が歯列をなぞり、口腔を刺激される。逃げた俺の舌は呆気なく捕まり、絡められて付け根をひたすら刺激されること数分。

くちゅ、くちゅ、という卑猥な水音と刺激で身体がおかしい。急に下腹に熱が溜まるのにそこ以外には力が入らない。

 

――コレは何だろう。どうして彼は俺にこんなことをする?

 

(俺は、一期をどう思っているかだって?)

 

彼が泣いているのは嫌だった。

彼が罪を着せられて、貶められているのがまかり通るのは俺には許せなかった。

炎の中で俺を庇った彼が、このまま打ち捨てられ悲しいままなのをどうにかしたくて、此処へ来た。

でも、どうして俺はそう思った?

 

(あの夢の中で、俺が思っていた事はもしかしたら)

――昔の俺が思っていた事だけじゃなく、俺自身が思った事があるのではないのか。

 

俺は嫌な事や納得できない事は長々しない主義だ。ずっと耐えてやっても、強いられた事で上手くいった事がない。それは主の補佐をして散々失敗したから身にしみている。だからその理論で行けば、彼の事は嫌いではない事になるけれど。

 

(嫌いではなくても肌を晒せるかは、別だ)

 

自分の本当を見せるなんて、簡単には出来ない。一期一振が言うのはそういう事だろうか。

嫌いじゃない、の心では、自分から肌は晒さない。暴くだけだ。

 

(好きなら、自分から言葉を紡ぐし、肌を晒すという事か)

 

でも彼は俺の前で泣いた。本当のことを俺に話してくれた。今も、俺に本当だけで相対してくれている。彼の理論で行くと、今の彼は俺を好きだということになる。

 

(彼は、俺が好き)

 

――この本丸の鶴丸ではない?

 

ドクン、と心臓が跳ねる。心拍数が上がった。脈が速い。緊張?まさか、この俺が。動揺している。

何もなかったらこんな風にならない。じゃあ、俺は。

 

(俺、本当は……)

 

ずっとずっと、彼の夢を見る。

それで泣くのは、あの夢の中で思った事が俺の心だったから、ここに来たなら俺は。

 

―― 一期を好きなのは、俺自身だ。

 

「こんな風に私が貴方に触れるのは、嫌ですか」

 

ドクドクと波打つ心臓の音を聞かれやしないかと焦りながら彼に問われる。

 

「別の貴方を抱いた手で、貴方にこんな風に触るのは耐えられませんか」

 

と更に言われるからただ必死に

 

「そんなことは、ない。俺は、嫌いな事なんかしない。俺は……できないんだ。俺が好きだと思わなきゃ、何もできない」

 

と返すと、彼は苦しそうに俺に言う。

 

「――私は、貴方が好きです。この本丸の貴方以上に、好きだ」

 

私は貴方を信じて居ますし、好きです。貴方が好きだ。私の一番が今貴方であるのを信じてくれますか、と言うから

 

「信じるさ。だって俺は……君を好きになったから、一緒に出たいんだ」

 

これから先もずっと君と生きていたいから、君を置いてなんかいかないと言ってから、ちゃんと肝心なことを言葉にしなければ、と思う。

夢の中の俺は、それを頑張ればよかったと言っていたのだから。

彼には俺の心を言葉にしたものが必要なはずだ、と思って言葉にする。

 

――そしたら、意外に出たのは本当に単純だった。

 

「好きだ、一期。君が一番好きだ」

 

君が好きで、信じてここまで来たと言ったら彼は泣きそうに笑う。俺を抱きしめている彼の身体も声もまた、少し震えていたから。

 

「鶴丸、殿」

「まだ君が不安なら――」

 

ですが、と言い募ろうとする彼の唇に俺から口付けをして、舌を絡めて俺は笑う。

 

「君と今ここで契る。俺を抱いてくれ、一期」

 

今ここで、俺が君を誰より特別に好きだと証をしよう、と言った。

 

 

**

 

「い、ち……!あ、そこはっ」

 

抵抗しない、信じられないなら俺の腕を縛ればいいさと言うと彼は気が進まない、とは言いつつも彼の拵にある紐で俺を後ろ手に縛った。

今俺は下腹を撫でられながら指の腹で胸を弄られている。既に血は止まった刀傷の付近は俺の持ち物の中にあった絆創膏を貼っていて、そこは触らなければ痛くはない。

ただ、彼はやはり気になったらしい。

 

「すいません、痛かったですね」

 

止めようとする彼に大丈夫だから、と慰めて、

 

「違うんだ。ただ、中々恥ずかしいな……コレは。俺は、はじめて、だから……アッ」

 

自分の声じゃないみたいな声。こんな声が出るとは知らない。さっきから触られると体温が上がるし、恥ずかしいと思うと顔に血が昇る。全くこういう経験がないことは丸わかりである。

 

自慰の経験は、と問われたからあると答えた。嘘じゃない。

ただ俺が自慰をしたのはかなり前の話だ。生理現象を自覚して主に相談した後に資料を渡されてなんとかした一回だけ。それ以降は実はない。多分忙しくて身体が興奮している暇がなかったせいだ。

だから俺は、自分が感じやすい身体だと言う自覚はなかった。

 

(意識がすぐ飛びそうなのはどうすればいい)

 

気持ちいいとかは知らない。

本丸には俺1人だから誰かに触れたことも無いし、主は妻子持ち。

忙しくて仕事が終わったら寝ているか、ゲームに興じていてそれがおかしいと指摘された事もない。

 

――だから、知らない。

こんな溺れそうな快楽は、知らない。

 

(俺には耐えられない事なんてないと思っていたが、違うんだなあ)

鎖骨まではちゃんと耐えられたので自分が触られることにすら弱いとは予想外だ。くすぐったいぐらいなら平気だろうと思っていた。でも、そこから下が自分は全部弱いなんて。

 

「ひゃっ」

 

急に首筋を舐めあげられてまた高い声を出してしまう。体勢的に俺は両腕を封じられているので、胡座をかいた彼の膝の上で立ち膝をしている格好である。そのせいで恥ずかしくても顔を隠したり口を覆ったりは出来ない。

着ているのは黒い単衣だが、上は脱がされて腰まで降ろされて素肌だ。

脚を開いているから内腿は見えているし、着ている意味があるのかいまいちわからない。細い帯が辛うじて繋ぎ留めているけど、コレでは着ていても自分の隠したい部分は隠せないまま、見られていることになり、自分でも初っ端から高度な事をしてしまったとは、思う。

恥ずかしい。非常に。

 

(でも、そうした方がいいと思ったからきっとこれでいい)

 

俺は彼としたいからこうしているが、俺が大丈夫な行動は彼には違う場合がある。

俺が拒絶だと思ってなくても、彼は俺が恥ずかしいと言わずに嫌だと言うとか、逃げるとかすると自分が悪いと責めそうだなと思って。

なら、どうせ初めてなのだから全部彼に任せてしまえと両腕を縛らせた。後悔はしてないから、これでいい。

ただ。

 

「あ、いち……アッ」

 

首筋の撫でた舌が鎖骨を辿り胸に降りて行く。少し心臓の上を強く吸われて紅い痕が出来たら、そこを舐めてくすぐられる。大した刺激じゃないのに、下腹部に熱が集まる感覚に驚いて反射で耐えようと上唇を噛めば口付けをされる。

 

「噛まないで下され」

「ん、ふ……」

 

温かい左手が腰を支え、右手が内腿を撫でる。

口付けで俺の身体が弛緩すると、彼は笑ってまた胸に顔を近づけて、胸の突起を口に含んで転がし始める。

 

「いち、そこ、何も出ないからッ」

「知ってます。でも、こうしたくて」

 

吸われながらいきなり熱を持って緩く立ち上がった俺自身を触られて、どうしていいかわからない。交互に胸を吸われながら手で扱かれて、追い詰められる。

服の下にするりと入ってきた腰を支えていたはずの左手の指で腰を撫でられ、脚の付け根を刺激され右手に俺自身を、唇が胸を。

自分ですら大して触らない場所を同時に刺激され、溜まっていく熱に耐え切れず。

 

「あ、やあ……ん!」

 

俺は気づいたら泣きながら彼の手に自身の熱を吐き出していた。暫く先端から白濁が止まらず達し続け、身体の震えは収まらない。

 

恥ずかしい、情けない。こんなすぐにイクなんて。彼の手を汚してしまった。幻滅されたらどうするんだ、と思っていると左手で彼は俺を撫でた。

 

「貴方は可愛らしですな。大丈夫です、泣かないで」

 

それから彼は俺の白濁で濡れた指を舐めてから、屈んで飛沫で濡れた俺の下腹や俺自身を舐める。

 

「いち、だめだ、やめ」

 

やめさせたいが腕は動かないので言葉でそういうと、彼は笑って

 

「貴方のですから」

 

貴方の気ですし、綺麗だから大丈夫と言った後にでも、と前置きして

 

「気にされたのなら、私のも舐めて下され」

 

前を寛げて彼の自身を出されて。俺のよりは大きいそれに少し驚く。こういう部分は刀身とは関係ないのか、と思っていると

 

「無理でしたらいいですよ。ただ、後で痛いかもしれない」

本来なら香油とかがあれば良かったのでしょうが、今はないのでと申し訳なさそうに言う。

俺の負担が大きいから、と心配する彼は優しいなあと思う。

誠実な彼で良かった。変な奴に引っかかってこう言う展開になったら俺は無事ですまなかったかも知れない。無理ならいいと言ってくれる彼は、もっと大事にされていいだろうと思って、

 

「俺がしようと言ったんだから、気にするな。それに俺ばかり恥ずかしいのは、嫌だぜ?」

「そう、ですか?」

 

戸惑う彼に、腕は使えないので屈んで彼自身を口に含む。だがそのままでは上手く口で扱けないので彼が気持ちよくないだろう、と思って一度離して舌で舐めて、口付けをした。

舐めて、少し唾液で濡れてからもう一度咥えたらなんとか扱けるようになって、上下に扱く。

自慰の基本知識でそうすると。

 

「……くッ」

 

くぐもった声が聞こえて来たのでどうやらこれでいいらしい。気持ちいいのだろうかと視線を上げると彼は目を閉じて少し頬を赤くしていた。

そんな彼は可愛らしい気がして口淫をそのまま続けると、だんだんと変な気分になって来る。

 

下肢が熱い。熱が溜まる気がする。

 

(どうして)

 

咥えて舐めて、扱いているだけだ。多少苦いのは彼の体液のせいだろうけれど、喉奥まで入る時に身体が反応して勝手に下肢が熱を持って来る。

それに気づいて思わず止まったら、彼が気づいたのか笑う。

 

「可愛らしいですな。鶴丸殿、どうかそのまましてください」

 

そう彼は俺の髪を撫でる。言われた通りに続けると、彼が自身の指を舐めた。

卑猥だな、と見上げていれば俺が喉奥に咥えた時にするりと彼が俺の身体の下から手を入れてツプ、と後穴に唾液で濡れた指を入れそのまま抜き差しし始める。

 

後ろの異物感に一度息を詰め、咥えたまま止まってそれに耐えたら、その内に指がある一点を掠めた瞬間に身体に何かが走った。

 

「あ、あ、いちっ、そこッ」

 

思わず口を離してしまう。指がその一点を刺激する度に身体に力が入らない。

 

「ここが鶴丸殿の快い所ですな」

 

見つかって良かったと言った彼はそのまま指を動かす。長い指に弱い部分をぐりぐりと刺激されると身体に甘い痺れの様なものが走って、腰が勝手に揺れる。いやらしく指を引き込んでそこを触らせるように中が動くのが恥ずかしいのに、どうにもならず。

あ、あ、と言葉にならないまま喘いで、はあはあと息が荒くなる。

その隙に指が増えて中でバラバラに動かされた。弱い一点をひたすら責められて、広げられて何も考えられない。

 

「いち、だめ、はなし」

 

離してくれと最後まで言い切れなかった。我慢できず白濁を零しまた泣きながら達すると彼は

 

「感じて下さって嬉しいですな。貴方はとても美しくて、可愛らしい。私にはもったいないくらいに」

 

そう言ってから指を抜く。彼は上着を脱いで、上半身は素肌になりそのまま、俺を持ち上げて膝の上に座らせた。余韻でぼんやりしていたら立ち上がった彼自身が後穴に当たる格好になり、ひゃ、と声をあげたら頬に口付けをされて、正面から真剣に

 

「鶴丸殿、好きです。私と契って下され」

 

そう言われ、纏まらない頭で考える。

 

(此処からは戻れない。呪が解けるかは賭けだ)

 

彼の、失敗したらどうしよう、と言う不安が拭えないのはわかる。俺と契っても、解けなかったらまた此処で一人きりだと怖いのだろう。

だから俺は、安心させるように笑う。

 

「俺は絶対に君と此処から出る。大丈夫だ」

 

頬に口付けをして俺達が両想いなら絶対に失敗しないさ、と言う。身体が熱い。

「好きだ、一期。君が欲しい。はや、く……」

 

俺と契ってくれ、と脚を広げ彼自身に後穴を擦り付けたら彼が俺の中に入ってくる。指と比べものにならない圧迫感と痛みで目を閉じると、彼が萎えた俺自身を触って扱くから、だんだんと痛さが和らぎ後穴の力が抜けた。

入れられた彼自身の先端が俺の弱い一点をついた瞬間に俺の身体が変わっていく。

 

「あ、あ、いち、そこ」

「ここが一番貴方は好きみたいですな。どうぞ、そのまま動いて」

 

腰が勝手に上下して弱い所に当て始めるのが恥ずかしい。俺の身体はどうなっているんだろう。あ、あ、と喘ぐのを見られながら腰を使ってしまう。下からも突き上げられてだんだんと気持ちいい事しか考えていられなくなって来てそのまま快楽に流されそうになってから、ふと彼を見たら、笑ってはいるが金の双眸は少し寂しそうで。

 

(君を利用したいんじゃない)

 

俺だけは嫌だ。そんなのは、寂しいじゃないか。

 

(寂しい?俺、寂しいのか)

 

一人きりは、寂しい。たとえ2人でいたって俺だけ幸せじゃ、意味がないんだ。

それに気が付いて、身体が自由になる。自分の意志で身体が動く。そのまま、彼を見て。

 

「いやだ、一期、俺だけ君で、気持ちよくなりたいんじゃない……!」

 

嫌だ、こんなのは嫌だ。俺が彼を使って自慰しているみたいだ。俺は君が好きでこうしているんだ、俺だけ気持ちよくなりたいんじゃないと言うと。

彼が手を伸ばす。

縛られた腕が解かれて自由になったから、俺は彼を抱きしめたら彼と繋がったまま口付けをした。

 

「鶴丸殿、好きです。好きだ。私を利用しない、騙さない貴方を私は愛しています」

 

貴方を下さいと言われて、もらってくれと言えばそのまま押し倒される。

ず、とさっきよりも深く穿たれて、声を出した。

 

「一期、あ、そこ、もっと」

 

腰を動かされて突き上げられる。さっきみたいに俺だけじゃない。

それが嬉しくて。

 

  • 好きだ。気持ちいい。君、は?」

「気持ちいいです……貴方は、温かい」

 

やっと私は不安じゃない、と言われて良かったと返す。彼と繋がったところが熱い。突かれる度に甘く痺れて溶けていくよう。そのまま抱きしめて口付けて、喘いで、互いの名を呼んで。

肌を触れ合わせて繋がると、気持ちいいのだと知る。

 

こんなに幸せなのは、初めてだ。

 

奥を突かれて感じながら、これが最後なのは嫌だなと思う。

もっと、触れたい。彼に。彼が俺に触ふれてくれたらもっと幸せになるだろう。

でも、それが此処ではだめだ。此処は彼の哀しい記憶が眠る場所なのだから。

 

――なら、此処から2人で出ればいい。

 

此処からでで、もっと自由になれたら。

彼が悲しくない所で暮らして、彼と触れ合えたら俺はもっと。

 

(俺は一期幸せだと、笑っている姿がみたい……)

 

君と幸せになりたい。君と一緒に、此処から出たい。

そう、強く思ったから彼に手を伸ばし、手のひらで彼の顔を包んで言う。

 

「一期。俺と此処から出て一緒に生きよう」

 

君が俺の側に居てくれたら、君が触れてくれたら俺は幸せになれる、と言って

 

「ずっと寂しかったんだ、本当は。俺の本丸で俺は、一人きりだ。主には妻子がいても……俺には誰も、いなかった。でも、俺の考え方を理解されないならずっと一人でいいと、思ってたん、だが……」

 

君が好きになったら、君と一緒じゃないと苦しくなったんだ、と言って

 

「俺の本丸においで、一期。一緒に暮らそう。駄目なら、2人で生きられる所を探しに行きたい。駄目かい?」

 

君はどうだ、と問えば彼は泣きそうな声で答えた。

 

「私も、貴方と一緒に、生きたい。此処から出たい……貴方と一緒に居たい」

 

彼の同意が得られてやっと安堵する。俺は彼を抱き締めて俺は笑顔になった。

 

「やっと、言ってくれたな。一期」

 

(君が、自分から此処から出たいと言ってくれた。きっとその言葉で呪は解ける)

 

何故か俺にはそんな確信があった。

俺は彼に上手くいくさ、大丈夫だからと言うと少し腰を揺らした。

 

「俺を君のものにしろ、一期」

 

――君と一緒に最後まで気持ちよくなりたい。

 

そう言うと、承知しましたと彼が笑う。

 

「私も、貴方のものです。鶴丸殿」

 

ぎゅう、と抱きしめられて奥を突かれる。もう大丈夫。きっと上手くいくのだと思ったら勝手に身体は彼をただ愛し始めて、気持ちいい事を追っていった。

下肢にだんだんと溜まる熱を感じて限界を訴えると、彼は頷いて奥を強く突き上げる。

 

「あ……」

 

空を視たら櫻が待っていた。はらはらと、ただ穏やかに、静かに。

それからすぐ俺は耐えきれなくなって熱を吐き出す。それと同時に彼が俺の中に熱を放って。

その溶けそうな熱と、甘い波が意識を攫っていくのが心地よくて笑う。彼を見たら、櫻が散るのを背にしながら俺を見て笑っていたから。

――ああ、やっと彼は笑った。

 

その瞬間に。

遠くで俺の複製が折れる音を、聞いた。

 

それからもうあの夢は見ないと確信して、俺は笑って目を閉じる。

 

**

 

次に俺が意識を取り戻すと、そこは最初に俺が来た朽ちた本丸だった。まさか夢じゃないだろうと慌てたら彼の声が降ってくる。

 

「鶴丸殿、目が覚めたようですな。良かった」

「一期」

 

俺は彼に抱き締められて眠っていたらしい。服は整えられていて、傍には汚れた布が畳まれているのを見てやっぱり夢じゃないな、と思ってから起き上がろうとしたら腰が重くて上手く立てずにいると。

 

「無理なさらずに。私がおります」

 

頼って下され、と彼に言われて言われるまま支えてもらい立ち上がる。

彼は、温かかった。

 

「本当に上手くいったみたいだな。だが……」

 

ぐるりと観察して元に戻って来たと確信する。それから彼を振り返り、此処を見せてすまないと言えば。

 

「貴方がいるから、私は大丈夫です。平気では無いですが……でも、私はずっと此処にいたのは事実ですから」

 

貴方が来てくれたから、私はやっとこの悲しい場所から出られます、と言う彼を一度だけ抱き締めてから身体を離し、右手でアルミケースと布を掴むと俺は彼に左手を差し出した。

 

「行こう、一期」

「はい」

 

俺と彼の手が重なる。大丈夫さ、と言って歩き出す。

門まで黙って歩いて行けば、そこには2つに折れた俺の複製があった。俺はそれを穢れた布で包んで拾い上げる。

 

「ありがとな。もう一人の俺」

 

封じの札を外すと、また門に隙間ができる。彼を誘って笑う。それから振り返る事なく、俺達は一緒に悲しい本丸の外に出た。

 

** 

 

――その後、俺と彼はどうなったかと言うと。

 

 

「あっついなあ……」

 

仕事がある程度片がつき、外の空気を吸おうと5時間ぶりぐらいに本丸の中の俺が担当している分析専門の実験室から出てきた俺は、太陽の光が眩しくて一瞬目を眇めた。

暫く立ち尽くしていれば目が慣れて、今は夕暮れだと認識する。

 

――もう夕方なのにまだこんなに明るいのか。

 

今年は10月まで猛暑だというから、まだまだ暑いのかと窓の外をぼんやり見ていれば

 

「鶴丸殿、此処におられましたか」

 

正装した一期一振がレモン色の液体を淹れたガラスの器を2つ持って歩いてきた。この彼が、俺があの本丸から連れて帰って来た一期一振その人である。

あの後彼を連れ帰ったら主は俺ならそうすると思っていた、と言った。わかっていたらしい。

 

それから主の鑑定の結果正式にあの本丸の一期一振として生存が認められ、あの本丸の事件が外部犯である証拠――やはりあの笹には呪の気配があった――と共に報告された彼は、あの事件の生存者としての証拠性から刀解を免れ、俺の主の手入れを受けて今は、俺の本丸の一員として暮らしている。

今の彼には呪の後遺症もないが、彼は永く瘴気の中に居たせいで瘴気の強い合戦場には出られないし、移動にも監視が付く。鑑定にも関われないものの、彼には近侍だった頃の手腕を生かして俺や主の体調管理や日常業務の雑務を任せている。

俺と主は疲れると食事は不規則だし、睡眠もまばらでゲームをし始めるからだ。

 

「主にも今休憩を取って頂くよう進言してきました。鶴丸殿も、休憩しましょう」

 

そのいつも通りの姿に安堵して俺が笑うと、彼も笑う。

 

「君がいると人間らしい生活が護られるぜ……」

「私としては今まで良くこれで生きてきたと言わんばかりの環境でしたな。掃除は行き届いていましたが整理整頓とかの概念が無いし、とにかく食事がおかしい」

「仕方ないだろ。流石にそこまで手は回らなかったんだ。俺だって一応出来るんだぜ?ただ、仕事が立て込むと、大体機械に任せてしまってなあ」

 

栄養的には間違ってないし、一応カロリー計算もプログラムしてある。彼らは優秀だぞ、と返せば

 

「あのですね。ご自身の体調が分かってからそういうものは設定するものですよ。馬車馬のように働くのがいいわけないでしょう」

「それは鑑定の期限を決める上に言ってくれ……」

 

そんな会話をしながら連れ立ってテラスに出る。うちの本丸の様式は本当に洋風で、主によるスコットランド式らしい。

花や木が沢山のそこには2脚の椅子とテーブルがある。

 

「疲れた時には少し甘酸っぱいもの。いかがですか」

「君はわかってるなあ。それ、レモネードじゃあないか」

 

弾んだ声で言う。レモネードは好きだ。少し金色のそれは俺と彼の瞳の色のようだから。

 

「貴方は他の本丸の貴方と違うので、分かりやすいですよ。夕飯までは少し時間があるので、少々寛いでください」

 

そう言う彼にまさか俺だけじゃ無いだろうな、とずい、と上目遣いに見て服の裾を引っ張る。

 

「一期。 君も休憩、だろ?」

「ええ、もちろん。2つ持ってきましたから、一緒に」

 

良かった、と椅子に腰掛けてから彼からレモネードが差し出される。カランと氷が揺れるのを見ながら彼が椅子を引いて隣に腰掛けるのを確認して安堵した。

 

(やっぱり君は優しいよなあ)

 

疲れたから側にいて欲しい、と言うのは彼が来てから覚えた。実は自分が寂しがり屋だという事も。呼んでくださいと言われているのだが、実の所まだ上手く言えてはいない。努力中だ。

その辺俺はやっぱり鶴丸国永なのだが、それでも何とか彼ばかりに言わせるのはと思って、必死に頑張った結果はさっきみたいにしか言えない感じだ。けれど彼はその俺を気遣ってくれる優しい男である。

 

――ああ、俺は君が好きだな。

 

そう思ったからつい、彼に会う前に口にした歌をまた口に出してしまう。

 

“さねさし 相武の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも”

 

俺がそう歌うと、彼は笑って

 

“吾妻はや”

 

と歌うから驚くと、彼は知っていますよと笑って。

 

「古事記ですね。小碓命――日本武尊と弟橘姫の逸話ですか。その話、古事記だと弟橘姫は海に沈み戻らないですが、他の風土記だと再会しているそうです。私は、どちらかというとその話が好きですな」

 

もしかしたら、似た姿をした違う心の人ともう一度恋をしたのかもしれないです、私のようにという彼に。

 

「君は今俺と一緒に居て、幸せかい?」

 

そう問うと。

 

「ええ。貴方は私を外に出してくださった。私に触れてくださった。だから幸せです。貴方の傍に居られると、私はもう嘆かなくて済む」

 

一緒に居ましょう、と笑う彼に嬉しくなる。良かった、俺は彼に少しは幸せを贈れたらしい。

 

「君が好きだ、一期」

 

と素直に言えば彼は

 

「私も、貴方が好きです。鶴丸殿」

 

そう、とても綺麗で優しい笑顔で言った。

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